指定管理者制度への参入を検討するとき、「業務委託と何が違うのか」「運営費はどこから出るのか」「働く職員は公務員なのか」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
制度の概要だけでなく、お金の流れや役割分担を理解しておくことは、無理のない事業計画を立てるうえでも重要です。
この記事では、指定管理者制度の基本と、応募・運営を検討する際の確認ポイントを整理します。
指定管理者制度とは?わかりやすくいうと
指定管理者制度は、自治体が設置する「公の施設」の管理運営を、指定を受けた民間企業やNPO法人などの団体が担うことのできる制度です。
民間事業者などの経験やノウハウを活用し、住民サービスの向上や、効果的・効率的な施設運営につなげることを目的としています。
「指定管理制度」と呼ばれることもありますが、制度の正式な名称は「指定管理者制度」です。
施設の運営を任されるからといって、指定管理者がすべてを自由に決められるわけではありません。業務の範囲や管理の基準などは、自治体の条例や募集要項、仕様書、協定などで確認する必要があります。
指定管理と業務委託の違い
業務委託は、清掃、警備、設備保守など、契約で定められた業務を事業者が担う仕組みです。
一方、指定管理者制度では、自治体による「指定」に基づいて、公の施設の管理運営を担います。指定には議会の議決が必要となり、条例で定められた範囲で施設の使用許可を行うこともできます。
例えば、施設の清掃業務だけを受託する場合と、利用受付や事業企画を含む施設全体の管理運営を担う場合では、必要な体制も責任の範囲も異なります。
ただし、具体的な担当業務は施設によって違います。「指定管理」「委託」という名称だけで判断せず、何を任され、どこまで責任を負うのかを募集資料で確認しましょう。
指定管理者制度のお金の流れ
指定管理者制度のお金の流れは、施設によって異なります。まずは「自治体から支払われる指定管理料」と「施設の利用者が支払う料金」を分けて考えると整理しやすくなります。
自治体から指定管理者へ支払われる指定管理料
自治体から指定管理者に、施設の管理運営に必要な費用として指定管理料が支払われる場合があります。
指定管理者は、管理運営に係る収入をもとに、人件費、光熱費、清掃費、設備保守費、保険料などを支出します。
指定管理料が支払われるからといって、その全額が利益になるわけではありません。必要な業務と費用を積み上げ、指定期間を通じて運営を継続できるか検討する必要があります。
利用者から受け取る料金の扱い
施設利用者が支払う料金には、自治体の収入となる使用料と、利用料金制度によって指定管理者の収入となる利用料金があります。
利用料金制度が採用されている場合は、利用者からの料金収入が指定管理者の収入となります。ただし、料金を自由に設定できるわけではなく、条例や自治体の承認など、定められた条件に従います。
同じ「施設の利用料金」に見えても、誰の収入になるかによって収支計画は変わります。募集要項では、料金の帰属と徴収方法を必ず確認しましょう。
自主事業の収入と費用も確認する
施設によっては、指定管理者が企画する教室やイベントなどの自主事業が認められる場合があります。
その場合も、実施できる内容、事前承認の必要性、施設使用に伴う費用、収入の扱いなどを確認することが大切です。自主事業の売上を見込む際は、講師謝金、材料費、広報費、人員配置などの経費も合わせて検討します。
指定管理者制度のメリット
指定管理者制度には、民間事業者などの専門性や企画力を施設運営に生かせるという利点があります。
利用者のニーズに合った事業や、運営方法の工夫によって、サービスの向上や施設の利用促進につながる可能性があります。
事業者にとっては、自社の経験を公共施設の運営に生かし、地域との関係づくりや、新たな事業分野への展開を検討する機会にもなります。
ただし、制度を導入すれば自動的にサービスが向上したり、経費が下がったりするわけではありません。施設の目的に合った運営体制と、自治体による適切な確認・評価が重要です。
指定管理者制度のデメリットと注意点
運営を担う事業者には、人材確保、収支管理、安全管理、設備の維持管理など、幅広い対応が求められます。
利用者数の減少や光熱費の上昇などによって、当初想定した収支が変わる可能性もあります。追加費用が生じた際、自治体と指定管理者のどちらが負担するかは、協定などで確認する必要があります。
また、指定には期間があるため、現在の指定期間が終了した後も運営を継続できるとは限りません。人材育成や設備への投資を考える際には、指定期間と事業の継続性にも目を向けましょう。
自治体側にも、適切な事業者の選定や、運営状況の把握・評価を続ける役割があります。運営を任せた後の確認体制まで考えることが大切です。
指定管理者の職員の身分は?公務員になるのか
民間企業やNPO法人などの指定管理者に雇用されて働く職員は、公共施設で勤務するという理由だけで自治体の公務員になるわけではありません。
採用条件や給与、勤務時間などを確認するときは、施設の設置者である自治体と、実際の雇用主を区別する必要があります。
一方、公務員でないことは、公共施設の運営に伴う責任が軽いという意味ではありません。個人情報の適切な取扱い、安全管理、利用者への公平な対応など、担当業務に応じた責任が求められます。
個別の身分や雇用条件は、雇用主、就業規則、雇用契約などで確認してください。
総務省の通知と自治体のガイドラインはどう確認する?
「指定管理者制度のガイドライン」を調べる際は、総務省の制度説明・通知と、応募先の自治体が定めるガイドラインを分けて確認しましょう。
総務省は、制度の適切な運用に関する通知などを公表しています。例えば、平成22年12月28日の「指定管理者制度の運用について」では、制度の趣旨を踏まえた運用上の留意点が示されています。
また、原材料価格やエネルギーコストの上昇に関する通知では、協定などに定めたリスク分担や協議に基づく対応について示されています。
実際の応募では、こうした国の資料に加え、応募先自治体のガイドライン、対象施設の条例、募集要項、仕様書、協定案を確認します。
他の自治体の事例は参考になりますが、その条件が応募先にも当てはまるとは限りません。
指定管理者制度で「失敗」を防ぐために
指定管理者制度に関する失敗を考える際は、制度そのものの評価と、個別施設の計画・運営上の課題を分けて捉える必要があります。
ここでは、実在の失敗事例ではなく、応募・運営時に避けたい計画上の落とし穴を紹介します。
利用者数や売上を楽観的に見積もる
利用促進策を考えることは重要ですが、根拠のない来場者増加を前提にすると、収入が想定を下回ったときに運営が苦しくなります。
施設の利用実績や地域の状況を踏まえ、収入が少ない場合も試算しておきましょう。
必要な人員と人件費を少なく見積もる
開館時間中の配置だけでなく、休暇、研修、急な欠勤への対応も考える必要があります。
必要な資格や経験を持つ人材を確保できるか、無理のない勤務体制を組めるかまで検討しましょう。
修繕費や物価上昇時の負担を確認しない
施設の老朽化や設備の不具合、光熱費の上昇は、運営費に影響します。
どの修繕を誰が負担するのか、費用が増加した場合の協議方法はどうなっているのかを、応募前に確認することが大切です。
提案内容と実際の運営体制が一致していない
魅力的な提案でも、必要な人員や予算、協力先が確保されていなければ、実行が難しくなります。
提案書では、「誰が、いつ、どの予算で実施するか」まで具体化し、収支計画や人員配置との整合性を確認しましょう。
指定管理者への応募・提案書作成のご相談
指定管理者への応募では、制度の理解に加え、対象施設の目的や募集条件に合わせた事業計画が必要です。
農業経営研究所では、案件の仕様書や関連資料を確認し、ヒアリングを通じて必要な作業を整理したうえで、プロポーザル・提案書の作成を支援しています。
ご相談の際は、募集要項、仕様書、提出期限、現在の準備状況をお知らせください。
※本記事は制度の一般的な説明です。具体的な業務、料金、費用負担、雇用条件などは、対象施設の条例、募集資料、協定、雇用契約等でご確認ください。